天誅組余話 西田を巡る冒険
あとがきです。
天誅組を巡る様々な情報や思索。これらをもとに、土方歳三が天誅組に潜入させた間者である神代仁之助が、西田仁兵衛と名乗って天誅組で活躍するという小説を書き始めていました。
わかっているわずかな神代の過去。下獄していたらしいこと等を材料に、神代が不本意な過去を拭い去るまでの葛藤をメインテーマとして記述しました。
また、話を膨らませるために、天保高殿は薩摩の間者という設定にしました。
天誅組のメンバー。個性の強い様々なキャラクター。皆、書きたかったが乾十郎とその妻、池内蔵太、安積五郎を中心に描きました。
大峰奥駈道も外せない。重要な役回りを果たす山伏を登場させました。
脱出した西田が、鷲家口にいたのは、わざわざ戻ってきたという設定にしました。時間的にはつじつまが合います。
そして、クライマックス。彦根藩兵との対決の前に、西田が天保を斬るということにしていた。
しかし、書いているうちに、天保がかわいそうになってきた。
鷲家口の戦死の地の碑も、西田と天保が併記されている。
天保が西田と一緒に、腹を決めて彦根藩兵に突入するという話に、最後はしてしまいました。
ラストは、最後の最後まで、結構迷ったのですが、ハリウッド映画ならこうだろうというラストシーンにしてしまいました。
執筆の途中、奈良県東吉野郡鷲家口を訪れました。
奈良市でレンタカーを借り、二時間程度走る。山の中の田舎町。川がきれいだった。
初夏の陽を浴びて、出合橋のたもとに、西田と天保の碑がありました。
同じ碑に名前が仲良く並んでいる。
天保を悪役のままにしなくて良かったと思いました。
天誅組、西田をめぐる旅は終わりました。
まことらしき嘘は語っても、嘘らしきまことは語るなかれ、という言葉があります。
天誅組西田を巡って、まことらしき嘘を語れたように思いました。
但し、江戸から来た男、西田仁兵衛稲夫。この男は、天誅組三十三回忌の明治二十八年(一八九五年)、野村稲夫という名前で確かに存在していました。それは、まことなのです。