天誅組 ~西田を巡る冒険

小説 天誅組外伝

江戸から来た男 小説天誅組外伝(その十三)

翌朝、仁は、十津川郷士との最後の交渉に行くという乾十郎と伴林光平(ともはやしみつひら)の護衛として、風屋(かぜや)村に向かった。伴林は大和の国学者で歌人。天誅組では記録方。なぜか、平岡鳩平(ひらおかきゅうへい)もついてきていた。法隆寺の寺侍で、…

江戸から来た男 小説天誅組外伝(その十)

参 葛藤 天誅組挙兵の三日前、文久三年八月十四日。京、聖護院(しょうごいん)。 仁は、土方歳三と酒を飲んでいた。 土方歳三、二十八歳。壬生浪士組副長。新撰組という隊名は、まだ無い。 仁。神代仁之助(かみしろじんのすけ)、二十五歳。 「仁さん。手紙は…

江戸から来た男 小説天誅組外伝(その五)

仁も、敗走した。 あの大軍があれよあれよという間に、すっかり遁走してしまった。あとを追いながら、何度もため息をついた。また、うまくいかなかったかと。 田んぼのあぜ道に座り込む。すっかり刈り取られてのどかな風景が広がっている。吉野の山々が遠く…

江戸から来た男 小説天誅組外伝(その四)

翌日、八月十九日、前日の京での政変が伝えられた。会津と薩摩の提携により、長州藩は失脚。大和行幸は中止となった。大和行幸を契機に義軍を立ち上げ、長州や諸藩の協力を得て、討幕を果たすという天誅組の企ては挙兵二日目にしてついえてしまった。 しかし…

江戸から来た男 小説天誅組外伝(その三)

その日、文久三年八月十七日。仁は五條の旅籠に泊まり、翌日、代官所の焼け跡等を見て回った。 仁。歳は二十五歳。黒の羽織と袴には江戸からの旅の砂塵が染みついている。当世風の細い月代。道場で鍛えた長身の体は、夏から秋の旅でさらに絞られていた。 本…

江戸から来た男 小説天誅組外伝(その二)

壱 挙兵 五條に近づいていくと、黒い煙がたなびいているのが遠望できた。火事だ。 街に入ると、騒然としている。代官所と思しき屋敷に向かって、人々が駈けつけているのが見える。半鐘が鳴り響いている。すでに、始まっているらしい。 路上に、代官所から上…

江戸から来た男 小説天誅組外伝(その一)

奈良県東吉野郡鷲家口に、「天誅組志士西田仁兵衛先生戦死之地」と記された石碑がある。 この地は、幕末の浪人集団である天誅組(てんちゅうぐみ)が最後の突撃を行い、壊滅した場所である。 文久三年八月、突如、天誅組は大和五條の代官所を襲った。孝明天皇…